「bench(ベンチ)」作品展
1999年





<宮日新聞個展案内1999.6.21>

 本紙文化面の「みやざきの0座標」に連載している写真家・小林順一さんの個展「Bench」はギャラリーサイトで開かれている。個展は1992年以来七年ぶり。 街の風景に独自の角度を見つけてきた小林さんの新しい切り口が見られる。
 ギャラリーの四面の壁にそれぞれ同市橘通三丁目交差点(二カ所)、宮崎駅前広場、宮崎港造成工事現場の四ケ所の風景のモノクロ写真が並ぶ。いずれも現場にあるベンチから望んだアングルだが、それぞれの風景を百枚のパーツに分割、全体で四百枚の“群生”に仕上げた。プリントではなくコピー紙にしたため、モノトーンの沈んだ調子を一層引き出している。
 いずれも見慣れた風景だが。作品の内部に仕組まれた“動線”が風景を別の次元に移動させた。一つの壁面を覆った写真は白い縁を伴ったパーツの連なりで、しかもその断片は微妙に隣接とズレているため、全体をつなぐ連続・不連続があいまいなまま同居。画面に不思議なノイズと流動感をもたらしている。
 写真はもともと記録とフィクションの間で揺れ動くが、この風景にはそれらをアンビバレンス(両義性)として飲み込む奥行きが見られる。画面をいったん解体し、再び構築する際の微妙なきしみの中で浮遊する風景の意味。身近なモチーフから“見る”ことの冒険をここまで拡張させ、この空間に立ったときの“アナザーワールド”に誘いこむ手際は新鮮だ。


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